以前は興味なかったのにフラれた途端、なぜか彼女のことを狂信的に好きになって
ねちっこく復縁を迫る臨也って、もううざやっていうかキモいよねっていう小話


「ねぇーちゃん。好きだよ。大好き」
「うるさい9割が悪ふざけ」
「えー? ひどいなぁ。ねぇねぇ、残り1割は何?」
「気持ち悪さ」

臨也は酷いなぁ、と笑いながら本を読む私の背中にくっついて勝手に本を捲ろうとしてくる。
その手を払って睨み付けた。

「邪魔よ」
「彼氏に冷たいなぁ、は」
「もう別れました」
「嫌だよ。絶対別れない。死ぬまで一緒だよ」
「絶対嫌。1人で死んで」

このような態度をとっていて信じてもらえないかもしれないが、私は昔、臨也が大好きだった。
狂信者といってもいい。盲目的なほど私は臨也を愛していた。
高校生からだから8年近く彼を愛し続けていた。
どんな酷いことをされても無かったことにされても喰らいついて好きでい続けた。
彼が人間を愛しているといえば私も同じ物の見方をしようともした。
結局、彼の言葉は理解できないから形だけだったけれど。

「ねぇねぇ、今までのことは謝るからさぁ。また俺と恋人になろうよ。大事にするから」
「ならない。絶対に嫌」

臨也は私がかまわないのが面白くないのか、しきりに本を取ろうと引っ張ってくる。
かまってもらうのが目的だからか、無理矢理引っ張ろうとするのではなく
私が本を引っ張り返せるギリギリのラインの力加減を保っていた。

「やめてよ。読めないでしょ」
「キスしてくれたらやめる」
「しない! 変態! もういい!!」

本を離してバッグとコートをひったくるように持って部屋を出る。
ここも引っ越さなければいけない。
もともと新宿に事務所をかまえる彼の近くにいたくて引っ越したこの場所は物凄く家賃が高い。
普通の仕事をしている私には不釣合いだ。不動産会社にいこう。
池袋に知り合いが勤めている不動産会社があったはずだ。
新宿駅に向かって歩き出す。

、待ってよ。出かけるなら俺も一緒に行く。じゃないとナンパされちゃうでしょ?」
「別にいい。あんたとナンパだったらナンパについていく」
「そいつ猟奇殺人事件の犯人かもしれないよ?」
「あんたと猟奇殺人事件の犯人だったら犯人についてく」
は、いつでも平等だね。さすが俺の。大好き」

うぜえ…

チッと舌打ちして新宿駅から池袋駅に向かう。10分もしないうちについた。
歩いてもよかったが、臨也がまとわりついてくるのですぐにでも池袋に行きたかった。

某日11:00

「いぃいいざやああああああ、池袋には来るなって言ってるだろうがあああああああ」
「げ、シズちゃん」

池袋には平和島静雄がいる。私は静雄君を見つけるのが非常にうまかった。
臨也が逃げれるように、臨也のためなら死んでもいいわ、
なんて思っていた自分は少女漫画の見すぎだったと思う(しかもファンタジーだな)
私は横から回りこんで静雄君の肩をタッチする。
怖くないわけじゃないが、私はいつも勝手に静雄君と臨也の間に入っていたので
まわりの女子ほど静雄君が怖いわけではなかった。
それに標識を引き抜く前のこの状態ならまだ臨也臨也臨也(ある意味盲目)になっていないから話ができるだろう。

「静雄君、久しぶり」
「あぁぁあ!? …じゃねぇか」
「元気してた?」
「あぁ、まぁな。お前まだあのクソノミ蟲と付き合ってんのかよ?」
「そんなわけないでしょ。付きまとわれて迷惑してるの」
「へえええええ、そりゃぁ、お困りだろうなぁああああ」

静雄君がたじろいでいる臨也を睨んでいる。私はこれみよがしに静雄君に寄り添う。
女子のこういう態度を静雄君は殊更嫌っていたが、私は静雄君にとって
臨也の女=女じゃないんじゃね? ぐらいの認識だったのか、特に拒否されることもなかった。
その様子を見ている臨也は不機嫌そうに顔を歪ませていた。
ナイフが手の中でくるくると器用に回っている。

「蟲駆除終わったらお寿司食べようよ。半額だし。おごるよ」
「マジか」
「マジ。終わったら電話して」

私はそのまま静雄君達に背を向けて走り出す。

「シズちゃん何勝手に人の彼女口説いてんの? 馬鹿なの? 死ぬの? 死ねよ」
「あぁ!? 未練たらしくひっついてんじゃねえよノミ蟲!! フラれてんだよとっくに!!!!」
「本当にシズちゃんは頭が悪いなぁ! あれはが俺にかまってほしくてやってるだけなんだよ!!」

聞こえないフリをして不動産会社に向かう。

某日 13:20

露西亜寿司は半額ということもあって満員御礼だ。
もうお昼休みも終わっているというのに客の行列は途切れることがない。
私はカウンター席に腰をおろして静雄君を待っていた。
さすがに2時間じゃ終わらなかったのかなとちまちまお寿司を食べていると静雄君が店に入ってきた。

「お疲れ様。死んだ?」
「逃げやがった」

静雄君が不機嫌そうに横に座り、私と同じもの2つをサイモンに注文している。

「リボン曲がってるよ」
「お、おぉ。悪ぃな」

襟元のリボンが斜めになっているのを直すと静雄君は私をじっと見ていた。

「何?」
「いや、本当に臨也の野郎と別れたんだな」
「別れたよ」
「どうしてだ?」
「それを、静雄君が言うの?」

思わず噴出してしまった。殺したいと願うくらい嫌いな相手なのだから
嫌なところくらいわかっているはずだ。

「走って思い込んで疲れて、立ち止まって振り返っちゃったの。
 そしたら、あぁ、なんでこんなことしてるんだろうって悟っちゃったわけ」
「遅かったな」

静雄君がお茶を飲みながら笑っている。少し前の私なら臨也の天敵である静雄君と
話をするどころか、ご飯を食べることだって嫌悪したはずなのに。
今はとても心が穏やかだった。

「そうだ。静雄君。私の家、静雄君の近くにしようと思ってるの」
「あぁ?」
「そしたら臨也が勝手に部屋は入ったとき逃げれるし」
「あ、あぁ…そういうことか。おう、呼べ。すぐ行って殺してやるから」
「ありがとう」
「引越しいつするんだ?」
「もうすぐにでも。今週末には門田君に手伝ってもらって引越ししちゃうつもり」
「話つけてきたのか?」
「家は契約書もらってきた。門田君達はここのお寿司で釣った」
「…俺も手伝おうか?」
「あ、また釣れた」

入れ食いだーとサイモンと笑っていると招かれざる客が店の扉を開いた。

「あれー?シズちゃん達もここだったのー?知らなかったー!(棒読み)」

折原臨也だ。

チッ
チッ

私と静雄君どちらも舌打ちをする。
席をたって喧嘩を売りに行こうとする静雄君の手を握る。

「包丁とんでくるよ? あとそんな馬鹿相手しないでお寿司食べよう」
「……チッ」
「……。何でシズちゃんと手をつないでるの?」

臨也の言葉に慌てて手を離すと静雄君は頭を掻いて手を小さく振る。
心のなしかほんのり頬が赤い気がした。

「え、あ、ごめん」
「あ、いや。サンキュ。とめてくれてよ」
「静雄君…」
……」
「ぎゃあああ!! やだやだやだ! 何この空気!!!!!
浮気は駄目だよ! 絶対許さない!!」
「私静雄君のこと…」
…こっからは俺に言わせろ…」
「ぎゃああああああああああ!!!!」

臨也の絶叫に厨房からうるさいと包丁が飛んでいった。

material and design from drew | written by deerboy
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